Page17–「『夏の夜空へ 板橋公演』 を振り返る・その3」
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団長の独り言 2025.04.17-3
「夏の夜空へ板橋公演」を振り返る・その3
照明さんのシュート作業というのは、
仕込んだ照明機材(灯体)の当てる場所を
シュート棒というもの等で動かしながら、
狙った場所に明かりがバシッ!と当たるように
調整する作業の事で、この作業が終わると、
今度はシーン事に色を造っていく。
大道具や装飾類は
大体完成しているので、
舞台上に誰もいないし、
音響さんの音出しも、
「色調整」の間はほぼないので、
シーンと静まり返った誰もいない舞台では、
場面に応じて、様々な色が舞台を照らす。
照明が点いたり消えたり、あるいは
急に真っ暗になったかと思いきや、
突然客席の明かりが点き、
照明さんの世界が繰り広げられていく。
作業時間はどれくらいかな?
シュートも含めると約5時間くらいは
かかっているんじゃないかな?
その照明さんの作業がある程度形になると、、
音響さんの音出しタイムも始まる。
効果音のレベルチェック等は、
色合わせの前に済んでいるので、
ここではピアノ、ヴァイオリンを
実際に演奏してもらい、
音量調整や、ピンマイクを
使用する役者の声の
レベル等の調整等、ありとあらゆる
音響さん関係のチェック作業を行い、
18時30分、「場当たり」開始。
場当たりというのは、
立ち上がった舞台セットの中、
役者、照明、音響が舞台監督の指示のもと、
照明のタイミングと色合い、
効果音の入るタイミングや
音響のレベル、役者の立ち位置、
暗転中の舞台転換などが
演出通りかどうか?等々、
稽古場では絶対に出来ない
最終確認を行う作業の事で、
私がもっともピリピリする時。
場当たりで上手くいかなきゃ、
幕を上げる事は出来ないからねぇ。
そりゃーもうみんな真剣ですよ。
「では、幕開きからまいりまーす」
と舞台監督の高橋さんの
号令と共にみなに緊張が走り、
場当たりがスタートした。
今回の場当たりで、
一番大変になるであろうと思われるのは、
全盲でありながら、目の見える人の役を演じる
「イクシー」事、生島君の動き。
彼は初舞台だけど、
「見える人」の役に挑戦したいと
申し出てくれたのは、
今年に入ってすぐだった。
イクシーの
「熱意」と「やる気」があれば、
今のふぁんハウスでも、
必ずや「見える人」を演じる事が
出来ると思った私は、
躊躇する事なく
キャスティングをしたけれど、
いざ稽古が始まると、
どーしても見える人には見えず、
彼には
「あえて」厳しくダメを出し続け、
彼もそのダメ出しに応えるべく、
覚悟と努力と「熱意」と「やる気」で、
なんとか見える人に見えるかな?
レベルにまでなったのだが、
問題は実際の舞台上で、彼が芝居の度に
出入りする「玄関の扉」を使い、
ちゃんと動けるかどうか?って事。
イクシー演じる「伸ちゃん」が
頻繁に使用する「玄関の扉」は、
当然ながら、稽古場にはなかったので、
稽古期間中は「扉があるつもり」という
いわゆるエアー扉で、芝居を行ってきたけれど、
全盲の彼からしたら、
実は、感覚的に理解出来ない状態のまま
稽古を続けていた。
そんな彼が、いよいよ
「本物の舞台セットの扉」に実際触れて、
開け具合、扉までの距離感を確認する事に。
舞台セットが建ちあがった時点から、
タイミングを見計らっては、
舞台スタッフのメンバー等と共に
ドアから入り、前に置いてあり、
ソファーやテーブルに躓かぬように、
何度も何度も確認するが、
最初のうちは、
当然ながら全く上手くいかない。
そこで彼は、距離感を掴み、
扉の開閉動作が確実に出来るように、
何度も何度も、稽古を繰り返していると、
ちょっとだけ上手く行ったものだから、
その時点で安心をして、(もしかしたら
自分に言い聞かせているのかもしれないが・・・)
楽屋に戻ってくるなり、
「団長、もう大丈夫ですわ!」
ととても上機嫌。
本番の怖さを知らない彼に対して、
私はすかさず、
「全然大丈夫じゃないからね!
「ちょっとやって出来たからって
楽観的に考えると、必ずミスするぞ!」
とあえて彼にくぎをさすと、
イクシーの表情は引き締まり、
「もっとやります」と気合を入れ直し、
舞台作業の邪魔にならない範囲内で、
舞台袖からのドアまでの距離の確認と、
扉の開閉の訓練を行う。
その成果が場当たりで、
ちゃんと出来るのか?どうか?
芝居の初っ端はイクシーの登場。
曲が終わり、セミの鳴き声が響き渡り、
舞台に明かりが入ると、
酒屋のしんちゃんが
元気よく扉を開けて登場する。
「こんちは~三河屋でーす!」
客席の一番後ろで観ていると、バッチリ!
努力の成果が出ているし、
見える人にちゃんと見える。
しかしここで彼を誉めたら、
油断するのは間違いないので、
「いい」とも「ダメ」とも言わず、
場当たりを進めていく。
照明の色合いや、
効果音の音の響き等に関しても、
その都度、「こうして欲しい」って
ダメを出させていただくも、
「そんなのは無理ですねぇ~」
とは絶対に言ないのが、
劇団ふぁんハウススタッフの皆様。
限られた条件の中、
野中君も西坂さんも演出の希望通りにすべく、
音と色を作り上げ下さり、
おかげ様で順調に場当たりは進み、
21時15分、この日の作業は
タイムアップとなったのでした。