「台本に書かれていない物語」 福岡美佳

「想い出の香里ヶ丘に夢が咲く」の本番まで1ヶ月を切りました!
稽古もいよいよ大詰めです。
今回演じる役は、前にも書きましたが、東京から大阪へ駆け落ちしてきた夫婦の妻役です。
これ以上詳しく書くとネタバレになってしまうので多くは語れませんが、
稽古でない時に台本に書かれていないことをあれこれ空想するのがすごく楽しいです。

私が演じる「中田」は、夫と2人きりの時はどんな会話をしているのだろう?
夫のどんなところに惹かれ、結婚し、駆け落ちまで決意したのだろう?
朝食はきっとパン派だろうな。得意料理は肉じゃが?それともカレー?
もしかしたら、大阪に住んでからお好み焼きやたこ焼きにもハマってるかも。
中田は一度何かにハマるととことんこだわりそうだから、
たこ焼き器買っていろんな味のたこ焼きを作ってたりしそう。
お好み焼きもいろいろ具材や粉を変えて研究していそう。

そして、普段は引っ込み思案だけれど一度話し始めると止まらないタイプかもしれない。
強情で意地っ張りなのはお父さん譲りなのかな。
子供の頃はいじめられていたりして友達も少なかったのかもしれない。
でも、底抜けに明るい夫に救われ、惹かれたのかも。
あと、台本には役名は「中田」としか書かれていないけど、下の名前は?
夫と2人の時は何て呼ばれてるのかな?
「役作りは、台本に書かれていないことを考える時間でもある」と聞いたことがあります。
なので、自分なりに想像を膨らませています。

一見お芝居とは関係なさそうなことで、
これらには正解もありません(作家の中ではあるのかもしれませんが)。
でも、そうやって少しずつ人物像を組み立てていくと、
台詞の言い方やちょっとした所作や立ち方、
相手との距離感が変わってくるような気がします。

また、お芝居ではよく「その役として生きなさい」と言われます。
稽古場では、「中田」として笑い、悩み、夫を始めとする香里ヶ丘団地の住人達と交流します。
始めは台詞や動きを追いかけるので精一杯だったのですが、
稽古を重ねていくうちに少しずつ「自分」ではなく
「中田」の感情が自然と出てくる瞬間があります。
その感覚は、何度経験しても不思議です。
もちろん、毎回うまくいくわけではないし、
前にうまくいった感覚をそのまま再現しようとしても、不思議とうまくいきません。
「この台詞、どう言えばいいんだろう?」
「私の役作りは本当にこれで合っているのかな?」
そんなふうに悩むこともたくさんあります。
でも、その試行錯誤こそがお芝居の面白さなのだと思います。

本番では、お客様が目にするのは2時間ほどの物語です。
けれど、その裏では役者一人一人が、
台本には書かれていない人生まで想像しながら舞台に立っています。
劇場でお芝居をする私達をご覧になる時は、
「この人はどんな人生を歩んできたんだろう」と少しだけ想像していただけると、
また違った楽しみ方ができるかもしれません。
私も本番まで、台本に書かれていない物語を大切に育てながら、
「中田」と向き合っていきたいと思います。


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