Page22–「初日終了まで」
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団長の独り言 2024.7.20-7
7月20日(土) 「初日終了まで」
「老人ホーム開館40周年記念パーティー」
のシーン・・で事件は起きた・・・。
まずは老人ホームの住人「健三」演じる
よっちゃんと、「吉野」演じるあざみさんによる
「ヘビーローテーション」から。
切れのあるダンスと迫力ある歌声で、
程よい素人観を出しての2人の
でこぼこパフォーマンスは、
それはそれで狙い通りで、
1コーラス歌い終わって2人が退場すると、
老人ホームの不思議な従業員・立花役の
高取君が登場し、
なかなかの名司会者ぶりを見せてくれて、
「さぁ〜皆様、
大変長らくお待たせいたしました!
当ホーム初のプロの歌手の方の登場です!
苦節40年・・・どうのこうの・・
吉崎ゆかりさん、どうぞぉ〜」
と言って、
上手花道をまっすぐ伸びた手で差し、
そのまま立花がはけると、
みっちゃん演じる「ゆかり」が歌う
「つれづれ酒場」のイントロが流れる中、
お客様の視線は一斉に上手花道付近へと移る。
照明さんも、
花道から登場する「ゆかり」を
今か今かと待ち構える。
私も「ゲネプロ」で見せてくれた
素敵な「ゆかり」の登場に
期待を寄せつつ上手花道を注視するが、
あれ?出てこない?
イントロから
登場しなきゃいけないはずなのに・・・
いやな予感!
誰もいないステージに
イントロだけが流れている・・・・
どうした!
これは完全に何かあったのは確実!
このまま歌になっても
「ゆかり」が登場しなければ、
どう芝居を繋ごうか?と
私は「次」の事を考え始めたその矢先、
歌になったところで
「ゆかり」の歌声が聞こえて来た!
本人はいるにはいる・・・
しかし!
「ゆかり」は出てこない・・・
と!その時、
歌の途中からではあるが
「ゆかり」が花道に姿を現した!
ホッとした瞬間、
私の目に飛び込んできたのは、
帯がお太鼓になっておらず、
だらり〜としていて、
いつもならばキチンと櫛を入れて
後ろでゆわいた
素敵な髪もバサバサのまま・・・
おまけに草履も履いていない。
その姿を観て唖然となる私。
着物の早替えが間に合わなかった
という事はすぐに理解出来たが・・・
これまで稽古の時も前回公演の時も、
ここの早替えが厳しいなんて事を、
みっちゃんは言っていなかったし、
そもそも、
着替えが間に合わない事なんて
一度もなかったのだが、
一体彼女の身に何か起こったのか?
そんな事を想い憂いながらも、
歌っている「ゆかり」から
目を離さずにいると、本人は
かなり動揺しているだろうけれど、
「ゆかり」演じるみっちゃんは、
堂々と歌っている。
(帯を相当気にしてはいるが・・・)。
「どうか、どうか帯がほどけず、
『つれづれ酒場』を歌いきってくれよ!」
と祈りつつ舞台袖に飛んでいくと、
みーんながバタバタ!
そこで「何が起こった!」と、
スタンバイしているゆみさんに聞くも、
「分からないんです!急にみっちゃんが
『間に合わない!間に合わない!』って、
そこから皆で着物の着付けを
手伝ったのですが・・・」
との事。
そんな会話をしていると、
あゆみちゃんが血相を変えて
草履を持って走って来て、
袖でみっちゃんを待ち構え、
歌いきって暗転となり、
袖に戻ってきたみっちゃんに
素早く草履を履かせ、
すぐさま明かりが入ると、
そのままみっちゃんは、
メインとなる次の場面へと
向かって行った。
みっちゃんは、
後ろを向かないように向かないように、
それでいて芝居を崩さないように
動揺を抑えて、着崩れをしている
着物姿のまま「普通」に演じ切り、
見事にこの場を切り抜けた。
1幕が終わり、
10分間の休憩が入るが、
原因究明やら反省会は
あと!あと!あと!
動揺しているみっちゃんに、
「気持ちを切り替えて!大丈夫!
後半のクライマックスが
あるんだからね。笑顔で堂々と!」
と励ますが、かなり険しい表情で、
「すみませんでした・・・」と言うので、
「今は謝らなくていいから、
次に集中しよう!」と声を掛けると、
彼女は微かに笑顔を返してくれた。
それから私は楽屋に戻り、
客席の一番後ろにある
音声ガイドブースにいる美鶴さんを呼んで、
客席の反応を聞くと、意外にも
着物の着崩れで芝居が壊れたって
空気にはなっておらず、
大きな失敗とはなっていないとの事。
私は
「大丈夫!大丈夫!」と己に言い聞かせ、
メンバー達にもその事を伝え、
「後半、後半、
みんな落ち着いて!大丈夫!
笑顔でちゃんとやろうな!」と、
特に2幕の初っ端に登場する、
「居酒屋チーム」の
橘田君、美佳ちゃん、千秋ちゃん、
そしてみっちゃんを励まし、
みなを送り出した。
2幕が始まる。
どの役者も驚くほど堂々と、
そしていつものように演じている。
なんとも頼もしい仲間達だ。
当のみっちゃんも、
全く普通に、
いやいつも以上に集中していて、
観ていても安心できる。
私演じる「源さん」も
この居酒屋シーンで登場するのだが、
直接みっちゃん演じる「ゆかり」と
対峙しても、稽古通りの「ゆかり」で、
「源さん」に向かってきてくれるし、
また居酒屋のシーン以外でも、
みんなが落ち着いて、
特に「知世」役のゆみさんが、
貫禄たっぷりに芝居の後半も
引っ張ってくれたおかげで、
無事?初日の幕を下ろすことが出来た。
ロビーにてお客様のお見送りをするが、
笑顔!笑顔!
知り合いや辛口評論家の知人に
「やってしもーた・・」と小声で言っても
「えっ?どこ?」ってなもので、
これまた意外な反応。
帯がおかしいと思っても、
「わざと特徴ある結び方をしている」と
思って下さったお客様もいらしたみたいで、
いやぁ〜ホッと胸を撫で下ろす。
要するに、
みっちゃんがトラブルをものともせず、
堂々と演じ切ってくれたから
芝居が壊れずに済んだし、
またその直後、
みっちゃんの芝居を受ける
「知世」役のゆみさん、
「山本陽子」役のラムさんも、
いつも以上にグッ!とした芝居をしたからこそ、
芝居が壊れずに済んだのだと思う。
ただし・・・
それでも、本来は
あんなミスはやってはいけないもの。
公演終了後、全員、
客席に集合してもらっての反省会。
まずは何故にあんなことになったのか?を
本人から聞き、問題があれば改善し、
その他のシーンでも、照明さん、音響さんが
役者の位置等で改善すべき箇所も
言っていただき、明日、楽日の朝、
それらの気になる箇所全ての
転換稽古を行う事とし、
この日は解散となりました。


