Page11–「『出来ない』は言わない。」
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団長の独り言 2025.03.23
3月23日(日)
「『出来ない』は言わない。」
前回の稽古から、
土日両日とも13時から21時まで
ぶっ通し稽古となったのだが、
まだセリフを覚えきれていない
役者が数名いて、そのため芝居が
スムーズに進まず、テンポの悪い状態は
改善されないままであった。
これまでは、
「そのうちスラスラとセリフも
言えるようになるだろう・・・」
と我慢してきたけれど、
昼夜稽古となった時点でも、
テンポの悪い状態は続いていたので、
ここは大手術しかないな!と腹を決め、
「えいっ!」「やぁ!」とばかりに、
脚本をバッサバッサとカット
しまくったのは先週の話。
そうなると、
さすがに危機感を持ったようで、
本来稽古日ではない水曜日の夜、
申し合わせて
「自主稽古」を行なった。
ちょうど東京地方では
この時期にしては珍しく、
朝から横殴りの雪が降り、
予定していた遠出のお仕事が
中止となったので、
私も夜の自主稽古に
駆けつける事が出来た。
稽古場に顔を出せば、
半数以上のメンバーが
仕事を終えて続々と集まっていた。
その中には、目の見えないメンバーの
イクシー(生島君)もいたので、
とにもかくにも彼が苦戦している
「酒屋の伸ちゃん」の動きを中心とした
稽古を行う。
全盲の彼にとって、
「見える人」を演じるというのは、
相当ハードルが高いけれど、
「挑戦したい!」と
自ら出演を申し出てきたので、
私は彼の「やる気」に賭ける事にして、
キャストとして迎え入れた。
これまでにも劇団ふぁんハウスには、
数多くの見えないメンバーが
役者として参加し、並々ならぬ努力と
共演者の協力で、普通の芝居公演として、
上演させていただく事が出来ていたので、
今回も、イクシーのポジティブさと
明るさがあれば大丈夫だろうと
思っていたが、これが予想外に
相当苦戦しまくっている。
原因は、彼の「ポジティブ」な性格。
彼は、どこかに「なんとかなる!」
という気持があり、
それはそれで前向きでいい事だし、
そこが彼の長所ではあるのだが、
今回は、
その「なんとかなる!」という
「ポジティブさ」と「自信過剰」さが
芝居に対する「危機感」をも隠してしまい、
本気で「見える人の世界」を
研究するという事を怠り、
その場のノリと感覚で
「見える人」を演じていた。
しかも、彼は
「今日は随分上手くいったなぁ」
と言った事もあって、
私はその発言を聞いた時、
「えっ?あれで?彼は芝居を舐めているな」
と感じた。
そんな彼ではあるが、救いなのは、
「見えなから出来ません」とは
一切言わないというところ。
「見えないから出来ない」
を劇団ふぁんハウスで声高々に言われたら、
こちらとしては、
「あーそうでございますか」
としか言いようがない。
劇団ふぁんハウスは、
障害があろうがなかろうが、
芝居にかける「熱意」と「やる気」が
ある人達が集まり、
チームワークと本人の努力で、
「出来る事」を増やしていく劇団なので、
「見えないから出来ない」
「時間がないから出来ない」等々
すぐ「出来ない」という人は、
劇団ふぁんハウスでは
芝居をしない方がいいと思う。
話を戻すが、水曜日の自主稽古では、
そんなイクシーの「負けん気」を刺激すべく、
私は「あえて」容赦なくダメを出し、
違和感のない「しんちゃん」に
なってもらうべく、
あの手この手で「見える人の自然な動き」を
掴んでもらうための訓練を繰り返すと、
「おっ!」って芝居をみせてくれたのだ!
これは稽古場にいた誰もがそう感じた。
よし!よし!と安堵して、
臨んだ今週の稽古だったのだが・・・
あちゃ~また元に戻っている。
出来た事で、心のどこかに
油断があったのだろう。
今日のイクシーは、「見えない人が
無理に見える人の芝居をしてます。」
になってしまっているし、
そればかりか、
肝心の芝居も全く出来ていない。
「やる気」は人一倍あるんだけどねぇ。
その分、「言い訳」が多いし、
謙虚さが足りないのも
芝居を向上する妨げになっていると思う。
先日、2名の学生さんが
劇団の稽古場にやってきた。
彼女達は
「目の見えない人物」を演じるので、
「見えない人」の世界を真剣に研究し、
色々なところで、
視覚に障害のある人の話を聴いてきて、
「演じる」という観点から、
劇団ふぁんハウスにもやってきてくれた。
「見えない人」を
いい加減に演じたくない!
という熱意がビシビシ伝わってくる
ひたむきさと一生懸命さに心打たれた。
「イクシー、彼女達は一生懸命
『見えない人』の世界を研究していたよな。
で?イクシーは、彼女達ほど一生懸命に
『見える人』の世界を研究したか?」
先天盲の彼にとって、
見える人の動きってのは
想像出来ない部分が沢山あるはず。
「見える人」の役を演じるのだから、
貪欲に見える人を研究しなければ、
いつまでたっても
「見える人」には見えない。
そんな話をしたら、
彼は真剣な顔で強く頷いていた。
ただ、そうそうイクシーの稽古ばかり
している暇も余裕もない。
次回の稽古では、「結果」が出なければ、
残念ではあるが、
セリフは言える人に代わってもらうし、
場合によっては
出番そのものも削らせていただく。
それはイクシーでなくとも、
みんなに言える事。
次の稽古が勝負となる。


