Page20–「『夏の夜空へ 板橋公演』 を振り返る・その6」

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団長の独り言 2025.04.19-6

「夏の夜空へ板橋公演」を振り返る・その6

千秋ちゃんの声がおかしい!
2幕に入ってからも、
声は益々出なくなっている。

さすがにここまでかすれてくると、
お客様も気づき始めているに違いない。

「大声を出そうとしないで、
静かに語る芝居に変更して!」

彼女に言うが、
そういった事も出来ぬまま、
通常通りの芝居を続けるが、
声はどんどん出なくなっていく。

共演者達も気が気ではない。
だって、
通常の半分の迫力もないのだから。

芝居のクライマックス。
私演じる「木島」と
彼女演じる「里美」が怒鳴り合うシーン。

彼女に大声を
出させないようにするために、
私演じる「木島」が大声で怒鳴る
「フィジーへ高飛びするんだぞ!」
というセリフを、怒鳴るのではなく、
怒りを静かに抑え、
絞り出すように「里美」に告げるように
変更し、「里美」にぶつけた。

私演じる「木島」が怒鳴らなければ、
千秋ちゃん演じる「里美」が、
「警察は!ここまで来ないわよ!」
と怒鳴り返すセリフも、
イライラを抑えた芝居として、
静かに言う事が出来る。

こうして彼女が大声で叫ぶ芝居は、
全て静かな迫力に代えさせて、
あとは最後まで「声」を持って
くれることを祈るしかなかった。

その千秋ちゃんの声がいつも違うので、
当然ながら共演者も戸惑っているが、
みなは千秋ちゃんの芝居をフォローすべく、
必死テンポを上げて、
芝居が壊れない様に頑張っている。

それでも、中には
間延びした芝居をする役者もいて、
折角持ち直しかけた芝居のテンポも、
音をたてて崩れる場面があった。

「まずい!」そう思った私は、
「間延びしている」事に気づいて貰おうと、
私演じる「木島」とやり取りをするシーンでは、
その役者のセリフが言い終わる前に、
あからさまに「木島」のセリフを被せて言って、
間延びしている事に気づいて貰おうするが、
ダメだ・・・本人は気持ちよさげに、
朗々とセリフを語り、
自分だけの芝居が延々続く。

そんな私の芝居に気が付いた共演者が、
私同様、その役者のセリフを遮るように、
語尾を聞くか聞かないか?のタイミングで
自分のセリフを被せ、
テンポを挽回しようと試みる。

勿論、それらは芝居が壊れないように、
あくまでも役の人物として、
場面に合った状態でセリフを被せているので、
お客様には分からないレベル。

それでも、
こんな荒行事を本番中に行というのは、
実は大変難しく、
ある意味チャレンジではある。

稽古ではやっていないのに
こんな余計な事を本番で行ったがために、
自分のセリフが
すっ飛ぶって可能性は充分ある。

でもこのテンポをなんとかせねばと、
「テンポアップ」にチャレンジする
共演者達。

そんな緊迫した中、
会場内の温度はグングン上がり、
異常に暑い。

実はこの事は1幕の途中で気づいたので、
1幕が終わった休憩の時、
受付リーダーに内線電話にて
「場内の温度下げて!」
と指示を出したのだが、
なんと!驚く答えが返ってきた。

「区の決まりにより、
今の時期は冷房は入らないそうです」

なんじゃ?それは?
この日、板橋の日中の気温は、
30度近くまで上がっている。
それなのに劇場内に冷房が入らない。

お客様も汗を拭いながらのご観劇。
熱中症でお客様が倒れたらどうする?

決まりだから空調の調整は出来ない?
なんと時代錯誤な考え方。

でも決まり!と言われてしまえば、
我々ではどうしようもない。

そこで、みなで円陣を組み、
「お客様が暑さを忘れるくらい
集中して観ていただく芝居をしよう!」
と言って2幕を迎えたのだが・・・
メインの役者の声は出ないし、
間延びした芝居をしている役者もいるし・・・。

ただ幸いにして、
そんな状況下であるにも関わらず、
芝居自体は壊れる事もなく、
最後までやりきることが
出来たのは何よりだった。

それでも、
このままカーテンコールでの挨拶を
予定通り千秋ちゃんに
やってもらわけにはいかない。

彼女の声はもう限界を超えていたので、
その声で挨拶をしてもらうと、
お客様に気の毒がられて、
「同情」されてしまうのは間違いない。

そこでエンディングで全員で歌う直前、
今、まさに全員が袖から出ようとする瞬間、
ゆみさん(ますだゆみ)を捕まえて、
「最後の挨拶、ゆみさんやって!」
と言って、
こっそりとマイクを彼女に渡す。

彼女はかなり動揺していたが、
状況を瞬時に飲み込み、
目で私に
「分かりました」と合図をくれた。

次に私がやるべきは、
最後の挨拶の役者が変わった事を
舞台監督に伝える事。

「最後の挨拶、
千秋ちゃんからゆみさんになります!
マイクは団長用マイクです」

高橋さんも状況をすぐに飲み込み、
インカム越しに音響さんに指示。

「ラストの踊りながらの挨拶、
千秋さんからゆみさん
に変更になりました!
喋るマイクは、団長用マイクです」

彼が短く言っているのを確認し、
私も最後の全員で歌う場面へと
笑顔で向かう。

エンディングの全員の歌が終わると、
会場からは割れんばかりの拍手。

激しいテンポのいい曲に曲が変化し、
眩いばかりの明かりが
ステージ全体を照らすと、
そのテンポのいい曲に合わせて、
客席から手拍子が沸き起こり、
ゆみさんは曲の尺に合わせて、
堂々と挨拶をしてくれて締めてくれた。

これはあとで聞いた話なんだけど、

「あの瞬間に俺が無茶振りしたのに、
よくもまぁ~キレイにまとめて言えたね」

と言えば、
「エンディングで歌っている時に、
『何を言おうか?』必死で考えていました」

との事。

終演後、ロビーには
相変わらずお客様の笑顔の花!
お客様へのお見送りのため、
ロビーに立ち、ひとりひとりに
ご挨拶をしていると、
「すごい!感動したよ」
「素晴らしい!」
「涙、涙でした!」

と意外?にもとても評判がよく、
すこーしは胸を撫で下ろすが、
それでも私の中では、
ちゃんとした「夏の夜空へ」を
御覧いただけなかった事が悔しくて、
やりきれない心境だった。

その後、
2時間強のバラシ作業を終えて、
倉庫片付けチームは
3台の車に分乗し劇団倉庫へ向かい、
「夏の夜空へ」の大道具、小道具等を
約2時間かけて納め、
これにて「夏の夜空へ」は終了した。

このあと倉庫近くの居酒屋にて、
みなで晩御飯を食べつつ、
この日のアンケートを
読ませていただいていると、
ほとんどが楽しんで下さったという
内容のものばかり。

中には、
「会場が暑かった」
「千秋さん声、お大事に」等も
描かれたものもあるが、

それでもほとんどのお客様は、
とても楽しんで下さっていたのが
アンケートや、続々と届くネット上の
アンケートからも伺い知る事が出来き、
また本番が終わり1週間後の反省会の席でも、
それぞれのメンバーが、
自分のお客様から頂いた感想を聞く限りでも、
とても満足して下さっていたという報告を受ける。
(それらの感想は全て、劇団公式サイトの
アンケート結果に掲載しております)

会場の空調の件は、
我々にはどうする事も出来ないが、
体調管理の重要性と、「間延びした芝居」への改善は、
どの役者も「明日は我が事」だと痛感し、
来年の1月23日から25日まで
麻布区民センターにて行う
「夏の夜空へ」の再演でのリベンジを誓った。

反省会のあとの打ち上げでは、
みんな笑顔で大いに盛り上がり、
最後に三本締めを行い、
「夏の夜空へ板橋公演」を
終える事が出来たのでした。

さぁ!
いよいよ次は9月7日(日)、
京都府綾部市にある中丹文化会館での
「ふたりのゆめ綾部公演」だ。

客席数が
約900もある大劇場での公演であり、
劇団ふぁんハウスにとっては、
すっごく久しぶりの地方公演!

主催は、綾部市にある
「演劇まちつくりの会」で、
現在9月公演に向けての準備段階として、
我々は毎月綾部へと向かい、
市民の方向けの演劇ワークショップを開催し、
皆様との交流を深めている。

先日、(5月4日)に
第1回目のワークショップを開催したところ、
30名近い参加者の方がお越しになり、
とても楽しんで下さったようで
ホッとしている。

ワークショップ後の懇親会の席で、
実行委員長の後藤さん(綾部市議会議員)が、

「劇場に大勢のお客様に来ていだき、
綾部に新たなる歴史を刻みます!」

と熱く語って下さったいたのが
とても心に響いた。

その情熱に応えるべく、
我々は、「ちゃんとした芝居」を
綾部の皆様にお届けする責任がある。

6月から始まる
「ふたりのゆめ」綾部公演の稽古は、
今まで以上に熱く!熱く!
真剣に取り組んでいく覚悟である。

皆様、
これからも劇団ふぁんハウスへの応援、
よろしくお願い致します。

おしまい。


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