「パープルエキスプレス」  竹本和弘

今から約40年前の80年代前半から後半にかけて
文化放送で毎週土曜日の深夜に放送されていた「パープルエキスプレス」という
ラジオ番組がありました。
放送時間は30分で、
MCはミュージシャンでギタリストのDr.シーゲルこと成毛滋さん、
アシスタントは番組終了まで数名の女性が勤められましたが初代アシスタントは
ジューシーフルーツのイリアさんでした。

番組の前半はトークと音楽、
後半は「Dr.シーゲルのギター講座」と題して、
文字通りギター講座(ロックギター講座)という番組編成でした。
私は深夜にラジオのダイヤルを回していて偶然この番組を発見したのですが、
丁度「Dr.シーゲルのギター講座」をやっていて、
その時はヴァンヘイレンの「Eruption」という曲の奏法解説をしていました。
私はそれを聴いた瞬間、一気に眠気が吹っ飛びました。
普通のラジカセのラジオで聴いていたのですが、
そのラジオから流れてくるギターの音色がとてつもなくいいのです。
「えっ!ラジオ局のスタジオで、しかもギター一本で弾いているだけやのになんで
こんなにええ音出るんや?何これ!?・・・」
プロのロックバンドがリリースしているCDの曲から流れるギターの音色と変わらない。
当時私が持っていたエレキギターとアンプで出る音色とは比べ物にならない。
ギターもアンプもかなり高価な物を使っているからなのかなと思いきや、
ギターは私が持っていた5万円程度のものと同等のもの。
ただ、アンプが私の持っていたものとは違い、ラジオで成毛さんが使用していたのは
真空管式のギターアンプで、
「トランジスターアンプではこのような音は絶対に出ません」
と成毛さん。
そのとてつもないいい音色は真空管アンプにあったのです。
その時成毛さんが使用していたアンプは
日本ハモンドというメーカーの真空管式ギターアンプで、
出力は30ワット、定価が4万5千円のものでした。
同出力のトランジスターアンプと比較すれば少々高価ではあるものの、
さほど高いものではありません。
真空管アンプは音がいいだけではなく、
ピッキングテクニックの上達にも繋がる、
とにかくロックギターをやるには真空管アンプは必須であることをこの番組で知ったのです。

ちなみにプロのロックギタリストが好んで使っているMarshallやMESA BOOGIEなどの
高級ギターアンプも真空管アンプであるということもこの番組で知りました。
また、ギター講座の内容も奏法解説から音楽理論まで幅広く、
毎週ラジオにしがみついて聴いてました。
私がハードロックそしてロックギターにはまったきっかけとなったのがこの番組だったのです。
このパープルエキスプレスのDr.シーゲルのギター講座を
当時カセットテープに録音したものがわずかながら残っており、
その音源をPCに取り込んだデジタルデータを保有しています。

先日劇団の収録作業を行うため、
そのPCを劇団の稽古場に持って行ったのですが、
収録の合間のちょっとした休憩時間に
その音源、Dr.シーゲルのギター講座を
須藤あゆみと一緒に聴きました。
「40年前のラジオの音源だけど聴いてみる?」ってな感じで。

音源のギター講座の内容は正しいピッキングの練習方法を解説したものです。
私は何度も聴いている内容ですが、
須藤あゆみにとっては初めて聴くものです。
「ロックギターにとって最も大切なのはピッキングで、
日本人にとって最も難しいのもピッキングです」
と成毛さんはいつも番組でおっしゃっていましたが、
その正しいピッキングを身に着けるための練習方法を解説したものです。
その練習方法とは俗に言うハミングバードピッキングと呼ばれるもので、
「ピックを持つ手の手首を内側に折り曲げ、
肘から手首までと親指の先までが直角ぐらいになるようにし、
肘をボディーの上のところに軽く当て
ピックを持つ手の手首や指は一切ボディーに触れないようにし、
手首の力を抜き、
手を洗った後に水を切る時のように、
あるいは体温計を下げる時のように手首のスナップでピッキングする」
というものです。
まずはこのハミングバードピッキングができるようになることが第一歩なのですが、
これがなかなかうまくいかないのです。
一方、悪いピッキングというのは
手首と肘が真っすぐになって
かつ手首ががちがちになった状態でピッキングするという、いわゆる擦り弾きで、
正しいピッキングと悪いピッキングを実際に音を出しながら解説されています。

須藤あゆみはそれをとても興味深く聴いている様子でした。
そしてうなずきながら
「うん、全然違う」
ギターに全く詳しくなくても、知識がなくても
正しいピッキングと正しくないピッキングの違いは音を聴けば明らかにわかります。
一般的にはフィンガリング(指板を抑える左手の指の動き)に眼が行きがちですが、
フィンガリングは普通に練習すれば確実に上達し早く動くようになります。
ところがピッキングに関しては間違ったまま練習していても一向に上達しません。
どうやればいいのか?
が分かれば比較的すぐにできるようになるらしいのですが、
その「どうやればいいのか」がなかなかつかめない。
実は私も未だに正しいピッキングができません。
正しいピッキングができなければ、
早いフレーズは弾けないし、
まともな練習にすらならないと言っても過言ではありません。
ということでロックギターは疾うの昔にあきらめていたのですが、
ふぁんハウスでギターを弾く機会をいただき、
それ以来再びエレキギターにも触れるようになりました。
しかし、40年間悩んできたピッキングは未だ未解決です。
そしてまた再びこの最大の悩み事と向き合うこととなりました。
これが解決すれば、
私はもう思い残すことはないのですが・・・?
「パープルエキスプレス」、この番組を聴いてさえいなければ、
こんなことで悩み続けることはなかったでしょうね。


共有: