「セリフ入れ」 福岡美佳
舞台役者にとって避けて通れない永遠の課題――それは「セリフ入れ」です。
ちなみに演劇の世界では「セリフを覚える」とはあまり言わないようです。
「覚える」ではなく「入れる」。
頭の中だけでなく、体と心にまで染み込ませて、
自分の言葉として舞台で口から出てくるようにするからだと思われます。
私の場合、台本を受け取ったら、
まずは最初から最後まで何度も読むところから始まります。
作品の世界を掴んでから、自分のセリフとの格闘を開始します。
台本とにらめっこしながら、ひたすら声に出して読む。
私は声に出さないと全く覚えられないタイプなので、一人暮らしで本当に助かっています。
これがもし実家暮らしだったら、
家族に「またブツブツ言ってるよ」と白い目で見られていたことだと思われます。
ある程度スラスラ言えるようになったら、台本を少しずつ遠ざけていきます。
次は「歩きながらセリフ練習」。
部屋の中をぐるぐる回ったり、時には突然回転したり……。
側から見たらかなり怪しい光景かもしれませんが、私は至って真剣です。
更に困ったことに、外でもセリフをつぶやいてしまうことがしばしばあります。
夜道でマスクをしながら一人でぶつぶつ……。
自分では「稽古だ!」と思っていますが、他人から見たら完全に不審者。
通報されないか毎回ヒヤヒヤしています。
夜道で「あっ、胡散臭いおっさん!(前の公演でこういう台詞がありました)」
とか聞こえてきたら二度見しますよね…。
そんな努力(?)をしても、最大の難関はやはり稽古場で、
「よし、セリフ入った!」と思って臨んでも、
相手役の顔を見た瞬間、頭が真っ白になって
「え、今どこだっけ?」と固まることもしばしば。
あの沈黙の数秒間は、本当に永遠に感じられます。
でも不思議なもので、そうやって失敗して、恥をかいて、繰り返していくうちに、
セリフが体にどんどん染み込んでいくような気がします。
苦しいこともありますが、なんだかんだで楽しい時間でもあります。
ですから、もし劇団ふぁんハウスの舞台をご覧になるときは、
私のセリフがスラスラ出ていたら、ちょっと思い出してください。
――「あの人、家でぐるぐる歩き回ったり、夜道でブツブツ言ったりしてたんだな」と。
来年1月に再演される『夏の夜空へ』でも、再び「セリフ入れ」と格闘中です。
時間が経つとやっぱり忘れている部分もありますから、
また一から音読。パワーアップした「山の上ゆかり」をお届けできるよう、
今日も夜道でブツブツ頑張ります!


