「観る側に戻る時間」 福岡美佳

1月と2月の舞台が終わり、次の稽古まで少し時間があります。
その時間を使って、少しでも自分の芸の肥やしになれば…そんな思いを込めて、
劇場に足を運びました。

3月11日は、舞台「火の風に乗って」を観劇しました。
東京大空襲をテーマにした作品と聞き、
正直「かなりメンタルに来るかも…」と覚悟していたのですが、
物語には温かなヒューマンドラマの側面もあり、くすっと笑える場面や、
登場人物同士のやりとりにほっこりする瞬間もありました。
気づけば、すっかり物語の世界に引き込まれていました。
だからこそ、ラストに残ったのは、
「やっぱり戦争は絶対にダメだ」という静かで強い実感でした。
胸に重みを抱えながら、劇場を後にしました。

3月14日は、演劇倶楽部OHANAさんの「ら抜きの殺意」を観劇。
一度は観てみたいと思っていた、永井愛さんの名作です。
「ら抜き言葉」という身近なテーマから始まる会話劇ですが、
観終わる頃には「言葉そのもの」について深く考えさせられていました。
特に印象に残ったのが、
「女言葉に命令形はない」という台詞でした。
昔の女性は(もしかすると今もかもしれません)、
命令形を持たない女言葉によって、強い感情を表に出したり、
権利を主張したりすることが難しかったのではないか…
そんなことを強く考えさせられました。
たった一言なのに妙に心に残り、帰り道でもずっと反芻していました。
言葉使いは、その人の生き方や立場、
そして無意識の価値観までも映し出すものなのかもしれません。
役者にとって「言葉」は最大の表現道具。何
気なく発している一音一音にも、意味と背景があるのだと改めて感じました。

そしてもう一本。1月の「夏の夜空へ 麻布公演」で共演した
櫻井太郎さんご出演の「メモリーダイヤル~明日の君にさよなら~」。
亡くなった人と話せる電話「メモリーダイヤル」を巡る物語で、
あり得ない設定のはずなのに物語は驚くほど現実的で、
登場人物の感情が痛いほど伝わってきました。
「もう一度だけ大切な人の声が聞けたら」、
きっと誰もが一度は抱いたことのある想い。
気づけば胸がじんわりと熱くなり、危うく客席で涙腺崩壊寸前でした。

舞台に立っていないこの期間、
私は「演じる側」から「観る側」に戻っています。
ただ、物語にのめり込みながらも、演出の見せ方、台詞の間、
感情の動き、空気の作り方…そんなことをつい考えてしまうのは、
もしかしたら「職業病」かもしれません。
けれどこの時間は、次の舞台に立つ自分への大切なインプット。
次の稽古が始まる頃には、これらの舞台から受け取ったたくさんの感情が、
少しでも表現の糧になっていますように。


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