Page21– 「久美・美容室物語」その2

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団長の独り言 2022.02.11-2

「久美・美容室物語」その2

劇場入りが午前9時。
それから約3時間が経過したところで、
舞台面では大道具がほぼ立ち上がる。

「舞台セット案」って事で、
最初に私が描いた子供の
お絵描きのような絵を、
三井さんが具体化して下さり、
予算内で、
こんな立派で素敵な舞台セットを
完成させて下さるなんて!
いやはや、毎度の事ながら感動モノです。

その舞台セットに、
劇団ふぁんハウス初登場!
唐沢さんの照明が入り始める。

しばし客席でその様子を眺めていると、
2種類の窓枠の影が舞台上に現れた!

何処のシーンで登場するのかは、
私も聞かされていないけれど、
ワクワクしますなぁ。

あーいかんいかん!
私も何かと忙しい身!
客席に座っている場合ではない。

・・・って言いたいところだけど、
舞台面は
舞台監督の高橋さんが仕切っているし、
ロビー受付周りは、恵ちゃんが仕切っているし、
楽屋では千秋ちゃんが仕切っているようなので、

私はビックカメラへ向かう事にした。
音声ガイドの送信機に使うコードをね、
ちょいと購入してくるんです。

劇場の外に出るとポカポカ陽気で、
なんと天気のいい事よ。

劇場内は「夢舞台」の製造工場って感じで
色々な人々が
本番に向けて準備をしているけれど、

一歩外へ出れば、当たり前だけど
現実の世界・・・。

それにしても赤坂のど真ん中に
ビックカメラが出来てくれたのは
何かと助かるのです。

劇団ふぁんハウスが
初めて赤坂で公演した20数年前、
あそこになかったからね・・・
ビックカメラ。

私、こう見えて(どう見えて?)、
家電量販店大好き男でして、
用事がなくても、
平気で2時間は家電量販店を
ブラブラ出来る男なんです。

だからこうして、
ビックカメラに足を踏み入れると、
あれも見たい、これも見たい・・・!と、
つい全フロア─を制覇したくなる。

でもいかん!いかん!
目的のコード売り場に一直線。

今日は大変忙しい1日なので
目的のコード1本を購入し、
後ろ髪を引かれる思いでビックカメラを
後にして劇場に向かっていると、
千秋ちゃんから電話が入る。

「団長!12時までしか
搬入車の留め置きは出来ないので、
早く団長の車も移動して下さい!」

との事。
急いで劇場に戻り車を移動させる。

劇場から歩いて10分ほどのところに
コインパーキングはあるけれど、
我々は21時30分まで劇場にいるので、
そうなると、赤坂は駐車場代が
とんでもない料金となる。

そこで勝手知ったる新宿まで移動して、
料金の上限がある安心、安全な
時間貸し駐車場まで車を持っていき、
大急ぎで、大江戸線で劇場に
向かおうとすると、
舞台監督の高橋さんから電話!

「団長、今どこにいます?
舞台上にある道具類の配置確認を
お願いしたいのですが・・・」

道具類の配置確認というのは、
場面ごとに出ているソファーや椅子、
テーブル、あとは、役者の立ち位置等を
確定する作業の事。

ほら当然ながら劇場と稽古場では、
広さも環境も違うので、
客席からの見え方のベストで、
尚且つ、芝居の邪魔にもならない効率のいい位置を
決めて行かねばならない。

どこでも適当に道具類を並べたらいいって
ものではないのだ。

で、その道具類の場所が確定すれば、
照明さんが、全体的な明かりの調整を行う。
だからね、
新宿になんている場合じゃないではないか!

高橋さんは、
「大丈夫ですよ、他の作業をやってますので
無理せず気を付けて戻ってきてください」

となんとも優しい事を言ってはくれるが、
大慌てで劇場に戻れば、
舞台面はすっかり完成している。

「お待たせしました」
と関係者各位に謝りまして、
早速、客席から道具類の位置を見て、
場面ごとの配置を行うと、

その道具類に合わせたところへ
照明の調整が始まり、
やがて舞台上からは人が消え、
音も何もない世界で、
色とりどりの光が動きだす。

場面ごとに、照明の最終的な調整を行う
「シュート」という作業だ。

「シュート」は
とてもデリケートな作業なので、
2時間くらいはかかるかなぁ?
舞台上が突然暗くなったり、
明るくなったりするし、照明さんがイメージを掴む
大事な作業なので、他の作業はほぼ休止。

この間、仕込みの時は
様々なポジションでスタッフとして
働くメンバー達も、
各自思い思いの時間を過ごす。

数時間後、
シュートが終わると、先程まで静まり返った中、
照明のみチカチカしていた劇場が明るくなり、
今度はスピーカーからとても
ムーディーな音楽が流れ始める。

今度は音響の野中さんによる
サウンドチェックの時間だ。

各スピーカーから出る
音のバランスを聴きながら調整し、
アマティアズのピアノ演奏の音や
マイクを使ってソロで歌う
みっちゃんの音等、ありとあらゆる
「音関係」のチェックと調整の作業が入り、
それが終わると、休憩を挟んで
いよいよ場当たりの開始。

場当たりとは、
稽古場では絶対に出来ない
照明、音響、舞台転換等を
総合的に合わせる作業の事。

この作業では、
舞台スタッフはもちろんの事、
役者も早替えのタイミングや、
暗転の時の動きも、ちゃんと
確認しなきゃいけない。

このように、
稽古場では絶対に確認出来なかった事を
唯一確認出来るのが「場当たり」なので、
誰も彼もがいい感じで緊張している。

私は客席の真ん中にテーブルを置いて、
そこにテーブル灯、台本、ダメ出しノート、
場内に響き渡るマイクを並べ、
舞台監督が指揮する「場当たり」の開始を、
心を落ち着けて待つのでした。


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