Page22– 「久美・美容室物語」その3

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団長の独り言 2022.02.11-3

「久美・美容室物語」その3

場当たりが始まる。
緞帳幕が下ろされ、客席の明かりが入り、
劇場はお客様をお出迎えする状態。

私が座る演出席の隣には、
照明の唐沢さんがインカムを付けて、
譜面台に台本を置いて、険しい表情で
光調室にいる照明スタッフの方に
何やら指示を出している。

そのインカムは、
舞台監督さん、照明さん、音響さんが付け、
同時に会話出来るようになっている。

一応、私用のインカムも用意して
いただいているので頭につけてみると、
高橋さんの落ち着いた声が聞こえてきた。

「では、場当たりを開始します・・・
野中さん、1ベルをお願いします」

舞台監督の指示で、音響の野中君が
「劇団ふぁんハウスの1ベル」
を流してくれる。

劇場に備え付けのベルもあるのだが、
劇場のベルって、「ブッー!」という
ブザー音なので、どうも色気ないというか
なんというかなので、
24年前の第1回公演の時、
野中君が独自のベルを用意してきてくれて、
それ以来、ずーっと劇団ふぁんハウス公演の
開演をお知らせするベルは、

「♪チャンチャンチャン
チャチャチャンチャンチャン
チャンチャン~♪」

なのだ。(すみません~
文字にするとこんな感じなんです)

それにしてもこのリズム、
何度聴いても妙に緊張するよねぇ。

そのあとにボイスエマノンさんの
場内アナウンスが入り、
数分後、音楽ブースに座るアマティアズに
合図が行くと、アマティアズがオリジナルの
開演テーマミュージックを弾き始める。

その音楽に合わせて場内が暗くなりはじめ、
インカムから「緞帳あがります」
と高橋さんの声。

ゆっくり緞帳幕が上がり、
シルエットで浮かぶ舞台セットがゆっくり見え、
音楽が終わると同時に舞台上全体が明るくなり、
舞台セット全体が現れ、誰もいない舞台に
「桃子」役のますだゆみさんが、
元気よく登場!

「先生!先生!
あら、どこいっちゃったのかしら?もぉ!
予約の高木さんがお見えですよぉ~先生!」

劇団ふぁんハウスの幕開きって、毎回
大体こんな感じ。

ただ・・・今では、
こんな感じでお芝居が始まる公演って、
あまりないかもしれない。

いきなり場内が暗くなり、
明かりがつけば
いきなりお芝居が始まっているってのとか、
まだ客席が明るいのに、ブツブツ言いながら
役者がおもむろに客席から登場して、
そのまま芝居が始まるとか
あとは、いきなり激しい音楽が場内に流れ、
「何がはじまるんだ?」
みたいな派手派手な始まり方をする
芝居もあって、皆さん幕開きには、
かなり工夫を凝らしている。
そもそも緞帳幕自体、
最近のお芝居って使われないよね・・・。

でも、劇団ふぁんハウスはこれでいいの。
偉大なるワンパターンを頑固に貫く。

いわゆる
「お芝居のはじまりですよ」
的な幕開きが私は好きなのだから。

それが劇団ふぁんハウスらしさに
なっているのだから。

松竹新喜劇とか、吉本新喜劇とかも
偉大なるワンパターンな始まり方でしょ?

私はこの2つの芝居が
子供のころから大好きなので、
何かと影響受けているんですよねぇ。

さて、この場当たりだが、
転換時の照明や音響の変化、
色具合、音のレベル、
場面転換時の役者の動き、
立ち位置、早替えが間に合うか?
等のチェックを行っていくので、
そこに絡む箇所をどんどんと行っていく。

場当たりをしながらそのまま芝居を続け、
ゲネプロ(リハーサル)も兼ねるところも
あるみたいだけど、
私はどーもそのやり方は好きじゃない。

転換に絡む全ての箇所を徹底的にチェックして、
照明さんには、
「もっとここは赤を強くして」
「ここは上手(かみて)をうーんと暗くして」
「役者をもっと強調して」
という指示を出させてもらうし、

音響さんには、
「ここはもっとリバーブを効かせて」
「BGMは気持ちレベルを下げて」
「上手奥、呟く役者のセリフを
拾う事って出来ます?」等の
指示を出させてもらう。

その場当たりの進行は、
完全に舞台監督の高橋さんにお任せ。

高橋さんは、どんなに時間がタイトでも
決して役者やスタッフさんを焦らせない。
じっくり皆さんが納得できるまで繰り返してくれる。

「いらち」の私は「こんなペースで大丈夫かな?」って
思う時も過去にはあったけれど、
高橋さんに絶対的な信頼を寄せているので、
時間配分に関して口出しはしない。
(いらち・・・大阪弁で短気でイライラする人)

その代わり、
「高橋さん、時間のないところ申し訳ないけど、
ここもう一度返させてもらえますか?」

とか伺う事はあるけどね・・・
そんな時でも、
「いやー団長、時間的に厳しいので
無理ですわ」
とは言わないところがすごいよねぇ。

それでちゃーんとタイムスケジュール通り
に事が運ばれていくのだから
たいしたものです。

もっともそれには、
プロフェショナルな照明さん、音響さん、
そして舞台転換スタッフさんの
チームワークと機敏な対応が
高橋さんを支えているからってのも
あるんだけどね。

こんな感じで場面ごとに、
照明、音響、転換、役者の立ち位置の
チェックをしていくと、
あっという間に退館時間30分前。

「例の問題点」の解決方法はそ
明日の朝からの場当たりで
確認する事となったのでした。


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