Page6 –「壊して、また創る」

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団長の独り言 2022.09.11

9月11日(日)「壊して、また創る」

「久美・美容室物語板橋公演」
の稽古が始まったのが
8月6日(土)なので、あれからもう1か月!

毎回欠席者なしの中で進んでいるので、
順調って言えば順調なんだけど、
課題ってものが、稽古を行う度に
見つかるもので、やや焦り気味の中、
昨日今日も集中した稽古を行った。

前回の稽古では、
最後のシーンまで行う事が出来たので、
この日は再びシーン1からとなり、
とりあえず、皆さんの好きなように
演じてもらう。

ゆみさん(ますだゆみ)演じる「桃子」の
テンポいい芝居から始まり、
そのテンポに乗って、
みっちゃん(鈴木美千代)演じる
「久美」が華やかに登場し、
しばらく小気味よい二人のやり取りが続き、
あれよあれよという間にシーン1は終った。

素晴らしい!
「明日本番です」って言っても
通用する二人の息の合ったやり取りは、
前回の「赤坂公演」の本番を彷彿させる。

しかし、一観客として
じっくり二人の芝居を冷静に観ると、
その芝居に対して「違うなぁ〜」
って強く感じる自分がいた。

いえね別にいいんですよ、この芝居でも。
テンポもいいし、二人の息もぴったりだし、
楽し気な雰囲気も伝わって来るし。

だけど、
その息の合いすぎるテンポのいい芝居が、
どこか段取り芝居となってしまっていて、
その結果、セリフも「音」としてしか
耳に入ってこないという現象が起こる。

それよりなにより、
「なんでそんな芝居をしているの?」
と思うようなセリフの捉え方となっていて、
全く物語の中に入っていけなかった。

そこで、シーン1の芝居全てを
変更してもらうべく、
細かくダメを出していく。

ただ芝居全てを変更するって事は、
前回公演で「よし」としてきた全てを
壊すって事なので、
当然ながら二人は戸惑っていたし、

そもそも本番1か月前のこの時期に、
大胆なダメを出すのも危険って言えば
危険だとも思ったが、
この二人ならば大丈夫だと思い、
思い切ってダメを出してみた。

すると実力派の二人は、
私の出すダメの意図を理解して、
戸惑いながらも演じると、
最初のうちこそ身についてしまった
これまでの芝居が出てしまい、
ギクシャクしていたけれど、

「芝居を止めてダメを出す」
ってのを繰り返していると、
芝居が変化し始め、そんな二人を
見守っている他のメンバー達の顔にも
自然と笑顔が湧いてきていた。

うん!こっちのほうが全然いい。

再演作品の稽古を行っていると、
「なんで前回は
あの芝居を良しとしたのかなぁ?」
と思う場面が何か所もあるもので、
変更そのものは、
特に珍しい事でもなんでもないのだが、
今回のように、
ひとつのシーン丸ごと壊して、
全て創り直すという大胆なダメは
初めての試み。

こうした作業に踏み切れたのも、
私は二人の役者を完全に信頼しているし、
また二人も
私の事を信頼してくれているという
確信があったから。

なかには、ちょっとでもダメを出すと
反発心をむき出しにしてきて、
「演出家と議論する事こそ正義!」
という理念を振りかざし、
稽古場でやたらと
演出家に議論を吹っ掛けて、
貴重な稽古時間を無駄に
消費させてしまう役者さんも
いるみたい。

まぁ〜ね、
色々な芝居の作り方もあるでしょうし、
「ちゃんと納得出来るダメ出しじゃなきゃ、
一切演じられません」という考え方が
正しい!って人もいるでしょうね。

しかし、
劇団ふぁんハウスのこの二人は、
そのようなタイプではないってのは
分かっているし、彼女達の実力ならば、
私が何を望んでいるのかも
理解してくれると信じていたからこそ、
このような稽古となった。

そもそも平野恒雄って役者も、
自分が「黒!」って思っていても、
演出(もしくは監督)が「白!」って言えば、
「分かりました!じゃ〜白で!」って感じで、
すぐさま考え方を切り替えてしまう。
そこで「でも・しかし・だって」
は決して言わない。

だから
劇団ふぁんハウスもそうあるべき!
という一応のポリシーみたいなものは
持ってはいるけど、
それが正しいのか?どうなのか?は、
状況によって様々であるってのも
理解している。

例えば、
商業演劇や配給が大手の映画等では、
大人の事情で、監督や演出よりも
プロデューサーや出演者様のほうが
断然偉い現場もあって、
そんな時は
監督もしくは演出家が「白」って言っても、
大御所やアイドルスターちゃんが
「黒がいいなぁ〜」って言えば、
「はぁ〜い!じゃ〜黒でぇ〜」となり、
制作プロデューサーが
演出意図と全然違う「黒!」と言えば、
「白なんだけどなぁ・・」
と監督や演出家が思っても、「黒」にしなきゃ
いけない場合もあるみたい。

かくいう劇団ふぁんハウスでも、
24年間の活動の中で、
何百回、いや?何千回も
「しょうがないか・・・」
って思って妥協してきた事はあるし、
文句のような意見に耳を傾けつつ、
役者の性格や実力に合わせて演出を曲げ、
時に脚本すらも書き直してしまうって事は
何度もある。

そんな劇団ふぁんハウスではありますが、
今回は(も)、
「まずはダメ出しの通りに演じよう!」
という姿勢で皆が挑んでくれるので、
私も、遠慮なくダメ出しが出来る。

そんで、そのシーンを終えてから、
「ダメ出しの通った役者に対してのみ」、
「どうかな?」って、
意見や感想等を聴く時間を設け、
そこで色々と意見交換をし、
お互いが納得したところで先へと進むのです。

こうして進化し続ける「久美・美容室物語」。
どこまで進化するのか?
次回の稽古も楽しみでしょうがない
団長でありました。


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