Page31 –「ラジオニュースの理由」

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団長の独り言 2023.02.24-3

2月24日(金)
「ラジオニュースの理由」

場当たりが開始された。
前説があり、アマティアズのオープニングの
テーマ曲の演奏、
その間、舞台セットは色取り取りの照明の変化で
様々な顔を見せ、ピアノ演奏終了とともに、
舞台は暗転。

その暗転(真っ暗)の中で、
1998年のラジオ放送が場内に響き渡り、
やがて舞台セットの上に置かれた
「ラジカセ」にのみ明かりが入る。

「この放送は、あのラジオから
流れているんだなぁ」
とお客様に理解していただくような
演出とした。

ちなみにラジオのアナウンサーが
しゃべっているのは、こんな内容・・・

「アフリカ歴訪中の
アメリカのクリントン大統領は30日、
5つ目の訪問国である
ボツワナでサファリ観光を楽しみました。
前の日の夕食では、
シマウマの肉やキリンの肉の
スライスなど珍味を味わったという
クリントン大統領とヒラリー夫人、
この日は夜明けとともに
双眼鏡を首からぶら下げ、
野生動物保護区のゾウやライオン、
カバの群れなどを見て回りました。

次に橋本総理大臣は、参議院選挙に向けた遊説を
今日スタートさせました。
演説の中で橋本総理は、所得課税の見直しについて、
働いた分が報いられるものにしたいと述べて、
所得の高い層の減税を含む税率の
見直しを検討する考えを示しました。」

この原稿は、
1998年の実際のニュース原稿。

「クリントン大統領とヒラリー夫人」、
「橋本総理」というワードで、
「ちょっと昔の事なんだな?」って
お客様に理解していただこうという趣旨で
このようなラジオニュースを
芝居の冒頭に流したのだが、何故に芝居の冒頭で、
年代を示す放送を流したのかといえば、

「人生芸夢〜夢のとおり道〜」を
20年ぶりに再演をするにあたり、
当初の予定では、
時代設定を令和の今の時代に置き換えて
上演しようと思っていたら、

「今だったら、
この場面はスマホで調べるでしょ?」

みたいな箇所が数か所が出てきた。

そこで、脚本を現代に変更すべく、
「〇〇がおもむろにスマホを取りだし検索する・・・」
なーんてト書きを加えてみたりしたけれど、
この物語にスマホが登場するのはしっくりこないし、
そもそもそんな事をし始めたら、
物語自体が成り立たなくなってしまう・・・。

よし!ならばこの作品の時代は
劇団ふぁんハウス創立25周年にちなんで、
その当時の時代背景に合わせて、
1998年って事にしよう!ってなった。

ただ・・・なったはいいが、
この物語が25年前の時代のお話ってのを
お客様に分かっていただくには
どうしたらいいか?って話になった。

時代背景が江戸・明治・大正・昭和初期ならば
服装や舞台装置で、「ああ、ちょいと昔の話」
ってのが表現できるけれど、25年前というのは微妙。

仮に服装で時代背景を表現するとしても、
山間にあるひなびた温泉街にある芝居小屋の
登場人物達だから、
25年前も現在もそれほどの変化はないと思う。

黒電話とか、ピンク電話等の小道具で
25年前を表現する方法もあるかもしれないが、
山間のひなびた温泉街の芝居小屋なら、
ピンク電話あっても違和感ないし、
小道具だけで年代を表現するのも分かりずらい。

そこで1998年って何があったのか?
文明の利器であるスマホで調べたら、
長野オリンピックが開催されていた!

よし!これで行こうって思いきや・・・
じゃーどうするの?

時系列からいって幕開きの場面は、
1998年の夏って事から
スタートしなきゃいけないので、

登場人物が
「昨日のジャンプは舟木選手!すごかったねぇ〜」
「原田の涙はこっちまでもらい泣きしたよ」
なんて会話は成り立たない。
かといって幕開きの場面が夏なのに、
1月か2月だかに行われた
オリンピックの話題を持ち出すのもちょっと無理がある。

そこで思いついたのが、
1998年のニュースを冒頭に流そうって事!

ここでまたスマホで調べるが、
当時のニュース音源を探すのは至難の業で、
「これだ!」ってのが全然見つからない。

それでも色々と調べ、
なんとか原稿だけは用意する事は出来た。

じゃーこれを誰に読んでもらうんだよ?
ニュース原稿かぁ・・・・。
ん!ニュース!そっかぁ〜!

思いついたのは音声ガイドでナレーションを
担当して下さっているボイス・エマノンさん。

ただなぁ〜
彼は全国放送でラジオ番組を今も担当していて、
それこそ毎日のようにニュースも読んでいる
プロ中のプロ!で、
本物の現役バリバリのアナウンサーさん。

そのような方に、
「1998年のニュース原稿を読んで!」とは、
20数年来の付き合いとはいえども、
とてもではないが頼めないが、
音声ガイドの収録に来られた時に、
事情を説明して、恐る恐るお願いしてみたら、
二つ返事で、「おっけ〜!」ってな感じ。

「えっ!ホンマに!いいの!?」
「任せてよ〜」
って感じで快く引き受けて下さいまして、

こうして、
劇団ふぁんハウス25周年記念公演は、
凄い方の本物のラジオニュースから
スタートする事になったのだ。

ラジオニュースが場内に流れ、
ラジオに照明があたる。うん!私のイメージ通り。

そしてニュース原稿がある程度流れたところで、
舞台全体に明かりが入り、「ひろし」と「田上」が
漫才の練習をしているところから芝居が始まり、

女将役のみっちゃん(鈴木美千代)が、
貫禄たっぷりに入ってきたところで
舞台監督の高橋さんが、「はーいとめまーす」と言って
進行を止め、「団長、どうですか?」と
客席の一番うしろで幕開きのチェックをしている私に
確認をとるので、私は手元のマイクを手にとり、
「オッケーです」と伝える。

すると高橋さんは、
サクサクと場当たりを次へと進める。

例えばこの場当たりで、照明や音響が
「なんか違うかなぁ?」って思えば、
私は演出として、遠慮なく「こうして、ああして」
という注文するのだが、
そこで「いやぁ〜それは無理ですわぁ〜」
とは言わないのが
劇団ふぁんハウスのスタッフ軍団の皆様。

なんとしてでも、
私のイメージ通りの照明、音響に近づけようとして下さる。

まっ!そんな感じで
場当たりは順調に進んでいくのでありました。


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