Page33 –「場当たりもゲネプロも終えて。」

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団長の独り言 2023.02.25-

「場当たりもゲネプロも終えて。」

初日の朝、
空を見上げると青空が広がっている。
車に乗り込み、本番初日のルーティーンである
「ハウンドドック」の「フォルティシモ」を流し、
向かうは赤坂区民センター。

♪激しく、昂る、夢を眠らせるな〜
溢れる想いを諦めはしない〜♪

劇団ふぁんハウス設立25周年42回目の初日、
毎度のことだけど、この歌を聞くと身が引き締まる。

朝9時劇場入り。
まずは全員いるかどうかの確認。
女子楽屋に顔を出し、
皆さんがいるかどうかの確認しながら、
女性の皆様にご挨拶。
(男性は同じ楽屋なので挨拶が出来る)

舞台監督さんと音響さんは
楽屋に挨拶に来てくれたけれど、
照明さんはお忙しいみたいなので、
こちらから舞台へと出向き、
照明さんへのご挨拶も済ます事が出来、

成功祈願をするにあたっての
明治神宮の神様を、
どちらに設置させていだだこうか?
と舞台セットに目をやれば、

セットの上手奥の上に、
ちょうど神棚になるような台があったので、
そこに神様のお社を置き、全員集合したところで、
毎回恒例となるまずは成功祈願から。

アマティアズの祝詞に合わせ首を垂れ、
各自がそれぞれの思いを祈り、
心を落ち着け、昨日の場当たりの続きから。

昨日、かなりいいテンポで進んだので、
ラストのクライマックスから見せ場となる
「立ち回り」を経て、エンディングの二人の歌姫の競演、
そして全員登場しての華々しいフィナーレ、
私の挨拶のあと緞帳幕が下りる・・・
という一連の流れを、照明の色合いや音響のタイミングと
バランス等をチェックしつつ進めて行く。

この一連のクライマックスでは、私演じる「中沢」の
見せ場となるシーンが連続するけれど、

その中でも特に立ち回りのシーンは、
どんな照明で、効果音がどんな感じで入るのか等、
客席からキチンと確認をしたかったので、
私の代役で「立ち回り」をやってもらう人を
舞台スタッフの舞ちゃん(木村舞子)にお願いをした。

彼女は稽古中から、私の立ち回りの動きを
ほぼ完ぺきに把握してくれていて、
きっと彼女ならやってくれるだろう!
と思い、昨日の仕込みの時に
急きょお願いをしておいたのだが、
これは実は大変な事・・・。

「場当たり」とはいえども、
音楽に合わせ、10人ほどの切られ役を相手に
バッサ、バッサと切り倒し、最後の一人を
ジャンピング袈裟切りで切りつけて、
正面を向いて決めポーズをキチン取る!

こうした私が行うアクションを、
正確にやってもらわねば、
ちゃんとした照明、ちゃんとした効果音を
確認する事が出来ない。

そんな重大な役回りなのに、
舞ちゃんは、一度も私の代わりをやった事がなく、
いわばぶっつけ本番!
一歩間違えば怪我をする恐れもある。

それでも、
私が舞ちゃんにその大役を託したのは、
昨日彼女に
「手は覚えているよね?出来る?」と
振ってみた際、彼女は
「こうきて、こうして、それで、こうで!」
と言いながら、キレのある正確で素早いアクションを
魅せてくれたから。

当然ながら絡みのメンバー達も、
自分達の動きのチェックをしなきゃいけないので、
場当たりとはいえども、めちゃめちゃ本気モード。

プレッシャーの中、
舞ちゃんはすごい気迫で、立ち向かってくれた。

客席で観ていた誰もが
「すげぇ〜」っていうほどの完璧な動作!

そのおかげで私は照明さんへの
的確な指示を出す事が出来た。

いやはや・・・立ち回りの経験はない!
って彼女は言っていたけれど、
あそこまで動けるのは、たいしたものだ。
どうもありがとうね、舞ちゃん。

さてさて、
その「場当たり」を最後までサクサクと進め、
照明も音響も、
大きく変更してもらうべき箇所も特になく、
(細かいところはちょこちょこあったけど・・)

暗転中の役者も含めた場面転換も問題なく進み、
場当たりは予定時間どおりに終了したので、
1時間後、メイクも衣裳もバッチリ決めての
「ゲネプロ」が開始された。
(ゲネプロ・・・本番通り行うリハーサルの事)

みんな、本番どおりの照明、本番どおりの音響、
そして素敵な舞台セットの中での芝居とあって、
稽古場で通し稽古を行っている時以上に、
みんなの芝居も気合が入っている。

そんな共演者に刺激を受け、
私も「中沢」に魂を吹き込んみながら演じる。

そして後半のクライマックスのシーン。
「明美」、「女将」、「座長」の見せ場が続き、
そんな三人の話を聞いた「淳子」が
中沢にある事を問いかける。

その問いに対し、「中沢」は少し間をとってから
短い言葉をつぶやくのだが、私はゲネプロだというのに、
感極まってセリフが言えなくなってしまった。

確かにゲネプロというのは、
本番と全く同じようにやらなきゃいけないけれど、
これは役者のタイプにもよるけれど、
私の場合、ゲネプロというのは、
これまで稽古場でやってきた事が
本舞台でもちゃんと出来るのか?って事を
「最終確認」するって意識が常にある。

ましてや私の場合、
演出的な観点からも最終チェックしているからね。
なおさらゲネプロでは、あえて気持ちをセーブして、
客観的に芝居全体の流れを見ているところがある。

だからゲネプロで、
感極まってセリフが言えなくなるほど
役の人物に集中するって事はまず無かった。

後日談だけど、
本番を終えて1週間後に開催した反省会の時に
たけもっちゃん(竹本和弘)がこんな事を
言ってくれた。

「あそこのシーンで、『中沢』が
短いセリフを言う前のほんの数秒の間で、
『中沢』これまで歩んできた人生が見えました。」

いやぁ〜まさにその通り!
あの時は意識して間を取ったわけじゃなく、
セリフを言う瞬間に、これまで自分の感情に
蓋をして数十年間生きてきた「中沢」の想いが溢れてきて、
それがあの数秒間の「間」に集約され、感極まってしまい、
言葉が出なくなったんだねぇ。

それもこれも、
役者、スタッフ、全ての関係者の皆さんの
気持ちがひとつになって、
素晴らしい芝居になっていたからこそ。

こうしてゲネプロも無事終え、
あとは本番を待つのみとなったのでした。


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