Page30 –「場当たり開始まで。」

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団長の独り言 2023.02.24-2

2月24日(金)
「場当たり開始まで。」

大道具の建て込みも無事終わり、
椅子やテーブルの位置、
そして役者の立ち位置も決まったので、
ここから舞台面は照明さんのシュート作業が始まる。

シュート作業というのは、
簡単に言えば照明の色を決める作業の事。
場面場面において、
私の演出のイメージに近づけるべく、
照明さんが、
無数の照明機材から放たれる明かりの色を調整し、
それをひとつひとつ、コンピューターに
記憶させていくという作業なんだけど、
とってもデリケートな作業なので、
かなりの時間を要する。

誰もいない舞台が
音もなく突然暗くなったり、
明るくなったりして、
様々な色の光が
まるで踊っているかの如く
変化しながら舞台を照らしていく。

客席も舞台もシーンとした空間に、
光だけがチカチカと変化し、
舞台セットが様々な顔を見せていく。

客席に座ってこの作業を眺めているのが
私は結構好きで、
これまで稽古場でおこなってきた
芝居に命が宿っていく準備が進んでいる様を
見ているのはなんだかワクワクする。

朝からの搬入仕込み等で、
慌ただしく動き回っていただけに、
静粛の中での照明のダンスは、
心を落ち着かせてくれる。
ずーっと観ていてもまったく飽きない。

それでも舞台の外では、
楽屋周りや受付等の
様々な作業をおこなっているので、
時折、
「団長、ちょっといいですか?」と
声がかかるとその場を離れ、
舞台面以外での本番に向けての
準備作業のチェックして、
そしてまた舞台面に戻ってリラックスしてを
繰り返しているうちに、
数時間のシュート作業が終わったようで、
今度は音響さんのサウンドチェックが始まる。

先程の静粛とはうってかわって、
様々なスピーカーから様々な軽快音楽が流れ、
それはそれでまた気持ちが引き締まる。

スピーカーのチェックが終われば、
アマティアズのピアノの音のチェックと、
歌いながらダンスを踊るメンバーの
マイクのバランスチェック。

そして!
さぁーお待たせいたしました。
ボーカルを担当する
淳子役の千秋ちゃん(鈴木千秋)と
香役のまり恵ちゃん(萱場まり恵)の音合わせ。

これまで稽古場では、ピアノ演奏に合わせて、
おもちゃのマイクを片手に
二人は熱唱しながら練習していたが、
劇場入りして初めてちゃんとしたマイクで、
ちゃんとしたスピーカーから
出る自分の歌声をチェック出来るのだ。

大きなホールに、
リバーブのかかった自分の歌声が
響き渡るってのは、テンションが上がって
いい気分になるんですねぇ。

ボーカルの二人は、
一応は真剣にチェックはしているけれど、
心なしかなんだか楽しそう。

私も真剣にチェックしているけれど、
二人の歌声につい聞き惚れてしまう。
よし!よし!いい感じ。

徐々にみなのテンションも上がってきて
気が付けば18時、場当たりの開始だ。

場当たりというのは、
舞台セット、音響、照明の中、
全て本番と同じ環境の中での
場面転換が上手くいくかどうか?や
照明の色合いのチェック、
効果音のレベルチェック等々、
稽古場ではぜ〜〜〜ったいに
出来ない作業を行う作業の事。

役者達は、時間を見計らって
事前に舞台セットの位置関係を把握すべく、
舞台セットを動くうえでの歩数や、
舞台の一番前までの距離等、
何度も何度も確認をしていたけれど、
果たして「場当たり」でちゃんと出来るかどうか?
そして、衣裳の早替えのある役者は問題なく行えるのか?
それらを試すのもこの「場当たり」なので、
役者もスタッフも、そして演出の私も気合が入る。

「では、場当たり開始します」
という舞台監督さんの掛け声とともに、
あちらこちらから「よろしくお願いします」の
声が飛び交い、客席が明るい状態の中、
まずはボイス・エマノンさんの
場内アナウンスが入り、数十秒後、
アマティアズが演奏する軽快なピアノ演奏と共に、
前説の橘田君(橘田拓哉)とラムさん(小池陽子)が
奇妙なダンスを踊りながら登場するが、
緊張してます感バリバリで、
観劇の注意事項を「漫才風」に喋り始める・・・。

なんだかギクシャクしていて
二人の息もあっていないし、
観ていて全然シックリ来ないけれど、
場当たりは
役者の演技にダメを出す場ではなく、
あくまでも照明さん、音響さんを絡めた
技術的な事をチェックする場なので、
二人へのダメ出しは後ほど行うって事にして、
場当たりを進めていく。

昔は緞帳幕を下ろした状態で
アマティアズのピアノ演奏が始まり、
徐々に幕が上がるっていう、
かなりオーソドックスな幕開きに
こだわってきたけれど、

三井さんの舞台セットがあまりにも素敵なので、
お客様がご入場された時から開演前までのひと時、
舞台セットをさりげなく眺めていただきながら、
これから始まるお芝居の事を
それとなく想像していただいたほうが
期待感が高まるかな?って思い、
緞帳幕は最初から開いた状態にした。

その舞台セットが
アマティアズのピアノ演奏に合わせて
色取り取りに変化し、曲が終わると同時に
舞台は一旦暗くなり、
1998年のラジオニュースが
流れ始めて、ラジオにのみ明かりが入り、
物語が始まったのです。

つづく


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