Page32 –「頼れる・舞台監督」

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団長の独り言 2023.02.24-4

「頼れる・舞台監督」

とくに大きな問題点もなく、
場当たりはとっても順調に進む。

それもこれも、照明さん、音響さんが
優秀で私の意図するとおりに一発でバシッ!
と決めてくれているっては大きいけれど、
なんといっても、やはり舞台監督の
高橋さんの仕切りが素晴らしいから。

彼との付き合いも、
もう10年以上になるかもなぁ。
早いなぁ〜。

彼はつねに冷静で、焦らず、
イライラしたところも見せず、
何よりも私の癖と性格をキチンと把握した中で進行し、
どんなにタイトなスケジュールであろうとも
サラリとこなしてしまう。

彼は日本一の舞台監督だと思う。
いやほんとうに。

私がプロの役者としてガンガンやっていた頃や、
大道具の仕事をしたいた頃、
そして劇団ふぁんハウスを設立してからも
何名もの舞台監督さんと接してきたけれど、
高橋さんのようにスマートで仕事が早くて、
仕切りの上手い舞監さんはいなかった。

稽古場では、
演出家であり劇団の代表でもある私が
色々と仕切っているけれど、劇場入りしてからは、
舞台面での総責任者は舞台監督が担うのが通例。

舞台監督さん次第で、
公演が成功するか失敗するか
大きく左右する。

これまで私が観て来た舞監さん達の中には、
高圧的で、威張り腐っているわりには、
自分じゃー全然動かない人とか、

あるいは
照明、大道具、音響さんとの信頼関係が薄い人で、
その舞監さんの仕切りの悪さに業を煮やした
大道具の大将がとうとう切れてしまい、
舞監さんの胸ぐらをつかんで、

「おらぁ!いい加減にせーよ!」

なんて現場を目撃したこともあった。

あとは、
これは設立して4、5年くらいまでの
劇団ふぁんハウスでの事なんだけど、
素人が舞監をやっていた時期も結構あり、
私が舞台監督を兼ねていた時もあった。

その時期の劇団ふぁんハウスの仕込みは、
休憩も昼食休憩もほとんどなかった。

でも、それが「仕込みってものだ!」
という感覚で、休憩をとらないのが
当然だという認識でみんながやっていたが、
あるときから、
舞台監督さんもプロの方にお願いしましょうよ・・・
って事になって、お願いしたはいいが、
確かに多少の休憩時間は確保してくれるような
仕切りにはなったけれど、
その方とは、どーも波長が合わず、
結局1回限りでお声を掛けるのを辞め、

さてはて次の作品は、どうしたものか?
と困っていると、当時ゲスト出演していた
竹内の兄貴(竹内一善)が、昔からの俳優仲間で、
今回「座長」役として大活躍して下さった
堀越さん(堀越健次)に相談してくれて、
堀越さんのお弟子さんである
高橋さんを紹介してもらったのが
彼とのお付き合いの始まり。
(堀越さんは、プロの俳優であると
同時にとても優秀な舞台監督さんでもある。)

あれから十数年。
ご縁というのはありがたいもので、
今回はその堀越さんは役者として参加して下さる。
なんとも不思議な感じだ。

そんな事を思いながら、舞台建て込みチームが
朝のミーティングを行う部屋にひょいと顔を出せば、
おや?堀越さんの姿があり、以下は高橋さんと
堀越さんの会話。

高橋「あれ?ほりさん、手伝ってくれるんっすか?」
堀越「(微笑みながら)そりゃー(劇場に)いるんだから、
何もしないってわけにもいかんだろう(笑)」
高橋「マジっすか!(にやける)
じゃ〜俺のガチ袋貸しますよ(笑)」
堀越「いらねーよ!」
(一同、大爆笑)
※(ガチ袋・・・大工道具の入った腰につける道具袋)

こんな会話をしている師弟の二人が、
すごく頼もしく思えた。

実際、作業をしている様子を
客席から眺めさせてもらったけれど
この現場での親分が、弟子の高橋さんだという事を
ちゃんとわきまえている堀越さんは、
作業中は決して出しゃばらず、
それでいて手元(助手)である劇団メンバーには
的確な指示を出す。
そんな師匠の前で、立派な仕切りをしている高橋さん。
二人ともかっこよかったなぁ〜。

あっ!話を場当たりに戻しますね。
そんな師匠が役者としている現場でも、
高橋さんは、いつもの調子で順調に場当たりを進め、
たけもっちゃん(竹本和弘)演じる
「売れない作家・庄平」の登場シーンとなる。

目のみえないメンバーが、
稽古場とは環境も距離感も全然違う本舞台で、
芝居をしながら動き回るためには、

巨大にそびえ立つ舞台セットの位置関係や、
置かれているテーブルや椅子、
そして舞台袖までの距離感から、
舞台そのものの大きさまで、
全てを完璧に頭の中に叩き込まなきゃ
完璧な芝居を行う事が出来ないので、
目の見える役者以上に、場当たりでは全神経を使う。

ましてや、
たけもっちゃん演じる「庄平」は、
「目のみえる人物」を演じなきゃいけないので、
白杖なし、手探りもなしで、
スタスタと歩いて出てこなきゃいけない。

仕込みの合間をみて、舞台セットの位置関係を
何度も確認するたけもっちゃんの姿は目にしていたが、
なにせ彼にとっては十数年ぶりの舞台。
どうかな?って思ったけれど、
場当たりでの彼の動きは素晴らしく、
全く問題なく一発でビシッ!と決めてくれる。

稽古中での積極的な芝居もそうだけど、
このあたりも、さすが!竹本和弘!

こうして「庄平」絡みのシーンも、
全く問題なく、その後も場当たりは順調に進み、
さぁ!もう一丁と思っていたら、

舞監の高橋さんが、
「はい!では今日はここまでです」
というので、「えっ?」と思い、
時計に目をやれば、
おっと!もう21時10分、退館時間20分前。

こうして長い長い仕込みの1日が終わり、
明日の初日に備えるのでありました。


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