Page20–「場当たり」

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団長の独り言 2024.1.25 -2

「場当たり」

場当たりが始まった。

場当たりというのは、
舞台セット、照明、音響全ての
仕込みが終わった本番の舞台セットの中、
照明、音響、舞台転換、
役者の立ち位置の確認等、
稽古場では絶対に出来ない
最終確認作業の事を言う。

ここで演出である私のイメージ通りの
ものにしてもらねばならないわけで、
当然ながらイメージ通りにならないと、
そこは遠慮なくダメを出させてもらうので、
各スタッフさんにとっても、
私にとっても相当集中力のいる作業だ。

その中でも、
特に神経を集中するのは「幕開き」。

芝居が始まる最初ってのは、
とっても重要だと思っているので、
「幕があがる瞬間」に
お客様の気持ちをグッ!と
引き寄せたいってのが私の想い。

ただ今回のステージ、
幕開きとは言えども緞帳幕はない。

そもそも昨今のお芝居では、
緞帳幕を用いないお芝居の方が
圧倒的に多いけれど、
それでも平野作品ってのは、
ほとんど緞帳幕を用いている。

理由としては、
私が緞帳幕のある「お芝居」が好きだから。

何故好きか?
うーん・・・・。

立派な幕が劇場にあるのに
使わない手はないと思っているし、
あとは子供時分に、
よく親に連れて行ってもらった
びわ湖温泉紅葉パラダイスっていう、
今でいうところの
健康センターの規模の大きい版
のような施設にあるステージにも、
緞帳幕があったから。

ここに家族揃っていくのが
私が少年時代の平野家の唯一の娯楽で、
「ジャングル温泉」っていう、
まさにジャングルを模した巨大な流れる温泉に入り、
(本物のワニがそのジャングル風呂にいた!)

お風呂からあがると館内着に着かえ、
施設のど真ん中に位置する
ステージのある大広間で繰り広げられる、
様々なエンターテイメントを観るのが
とっても楽しみだった。
(客席数は、2階席もあったので、
500以上はあったのではなかろうか?)

エンターテイメントの種類は様々で、
売れない歌手のショー、ウルトラマンショー、
手品、サーカス等、何でもやっていた。

それらのショーが始まる前は、
必ず緞帳幕が下りていて、
いざ!始まるってなった時、
BGMが変わり、徐々に場内が暗くなり、
ゆっくりと幕が上がりはじめ、
ステージの中が段々見えてくると、
「何が始まるんだ!?」という
あのワクワク感が、
たまらなく好きだった。

それに、これも子供時分に大好きだった
吉本新喜劇や松竹新喜劇も、
開演前は緞帳幕が閉まっていたし、
あと!ほら歌舞伎!!
引き幕だけど、開演前はちゃんと幕が
閉まっているよね。

「幕があがる」というメリハリ感が、
とても好きだったので、
劇団ふぁんハウスでも、
どーしてもって事でもない限り、
緞帳幕を使うようにはしている。

ちなみに、はじめて「新劇」なるものを
観た高校生の時、
仲代達矢さん率いる無名塾の「ソルネス」は
緞帳幕がなくて、カルチャーショックを受けた。

終わりも幕が下りないから、
「終わったのか?どうなのか?」
分からなくて、でも客席から拍手が来たし、
客電が付いたので「アー終わったのか」って
分かったけれど・・・。

その後、プロになってからも
幕のない芝居はたーくさん観て来たし、
自分も演じた事もあったので、
演劇人を気取るには
「幕」がない芝居の方が
なんかいいのかもしれないが・・・
平野恒雄のお芝居の原点は、
「緞帳幕」だからねぇ。

今回も出来る事ならば
使いたかったけれど、
劇場の構造上の関係で、
緞帳幕なしでの開演とした。

だからこそ、余計に幕開き(幕はないけど)
の最初のシーンは妥協はしたくなくて、
照明が段々変化していくタイミングと、
そのあとに入る照明の明るさや、
ヴァイオリンのリバーブの掛かり具合、
そして最初に登場する「知世」の位置等、

何度も何度も、
照明さんや音響さんに注文を付けて、
私が納得するものを創ってもらう。

幕開き(幕はないけれど・・しつこい?)に
結構時間を取ってしまったので、
タイムテーブルを気にする舞台監督さんに
申し訳なかったけれど、舞監の高橋さんは、
「大丈夫です!」との
返事を返してくれるので、とっても心強い。

そのあとに続く、
場面転換を絡む箇所からは
サクサクと進んでいくけれど、
ん?舞台セットの奧にある
窓から見える「海」が、
青色が薄くて白色が目立つ・・・

これも劇場の設備の関係上
やむを得ないのも重々承知の上だが、
ただ窓の向こうには海が見えるって
状態にどうしてもしてもらいたいので、
照明さんにダメ元で希望を出してみたら、

舞台転換で椅子やカウンターを
動かす際の確認作業で、
場当たりが止まったタイミングを
見計らって照明部隊は、
私の注文を実現すべく、
とてもスピィーディーに
箱馬や機材を持ち込み
うまーく対処して下さって、
場当たりが再開する頃には、
ちゃんと青い海が広がっていた。

これぞプロの技!
どんな環境でも
演出家の「こうやって欲しい」
に極力近づけてみせるのがプロ。
いやはやさすが!です。

舞台上の転換は、
さすがに稽古場通りってわけには
いかないので、
何度となく中断したけれど、
その都度、解決策を見つけ、
場当たりは順調に
進んでいったのでした。


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