Page21–「場当たり・その2」

『団長の独り言』PDFファイル(A4サイズ)
↓ こちらからダウンロードできます。
団長の独り言 2024.1.25 -3

場当たりというのは、実際の舞台を使い、
総合的に舞台そのものを
決定していく作業なので、
演出兼作家の私としては、
出来る事ならば妥協はしたくない。

しかし、
「決められた予算内で」となると、
スタッフさんサイドの立場から
「これ以上は厳しい・・・」
というも理解出来る。

それは舞台セットにしても、
照明にしても、音響にしてもそう。

そんな状況下ではあるが、
もちろん私の想いってのは、
各スタッフさんも理解してくれているので、
「でも、しかし、だって」
とは絶対言わず、知恵と工夫と「やる気」で、
なんとしてでも演出の要望に応えよう!と、
皆さんがすっごく一生懸命に
プロとしてのプライドを掛けて
挑んでくれるので、とても頼もしい。

だからこそ私も遠慮なく、
自分の想いが伝えらる。

それは舞台の場面転換にしてもそうで、
極力短時間に、演出家の
要望通りの場面を「サクッ!」と
作れなければならない。

ただ・・・
こちらは役者が転換スタッフも
兼ねているとあるので、
場当たりでは稽古場以上の集中力が必要。

何せ、さっきまで芝居をして
役の人物として集中していたのに、
場面が暗くなった途端、
気持ちを切り替え素の自分に戻り、
暗闇の舞台上に大勢の人間が交差する中、
決められた手順で、
場面転換を行わねばならず、
これは意外と大変。

これまでは明るい稽古場で、
備品であるテーブルやなんかを代用し、

「ここに壁があるつもり」
「ここにカウンターがあるつもり」

という環境下で
「場面転換」作業を行っていたのに、
いざ実際の舞台で、しかも暗転の中で、
限られた短い時間の中での転換となると、
なかなかスムーズにはいかず、
今回の場当たりでも何度も何度も中断し、
上手くいかない箇所の修正を繰り返す。

特に大変な場面転換は、
「老人ホーム」から「居酒屋門出」
になるシーンと、
その逆の「居酒屋門出」から「老人ホーム」
に変わるシーン。

一番の関門であった
「居酒屋のカウンター」が
「老人ホームの棚」に
早変わりするところと、
居酒屋のお品書きが沢山書かれた壁が、
老人ホームの素敵な壁に変身するところは、
舞台美術の三井さんの
素晴らしきアイディアで、
素早く変身する事が出来るのだが、

居酒屋の椅子から老人ホームの椅子、
居酒屋のカウンターやテーブルの上に
置かれた数々の小道具の出ハケ
(出す・ひっこめる)はなかなか大変で、
舞台スタッフの舞ちゃんと高橋さんの
連携プレーと指導の下、
「最善の方法」を考え出していただき、
まずは明るい中で手順を確認し、
次に実際の暗闇の中で行えば、
「まぁーなんとか出来るでしょう。」
というレベルになる。

本当には「まぁーなんとか」ではなく、
バッチリ!大丈夫です!
と自信を持てるまで
繰り返したいところではあるが、

みんなが納得するまで繰り返す時間は
さすがにないので、役者は役作りの
大変な中ではあるけれど、
各人が瞬時に転換スタッフへと
頭を切り替え、
素早く確実に転換が出来るような
イメージトレーニングを
行ってもらうしかない。

ただこの暗転中の舞台転換って、
大変なんだけど、個人的にはね、
実は結構好きだったりも
するのですねぇ。

暗転になった瞬間に、
音もたてずに手際よく動き、
場面を転換していく。

時間との勝負だけど、
もちろん掛け声もかけられない。

舞台上には色々な人が交差している。
ましてや目の前はお客様がいる。

その緊張感の中で素早く行動し、
そして場面転換が終わり、
音楽も終わって明かりが入ると、
さきほどの「戦場」が
嘘のようにふつーに芝居が始まる。

あの緊張感と達成感がたまらない。

でもさすがに今回は、
舞ちゃんと私で「社長のデスク」を
素早く移動した直後に明かりが入り、
すぐに私が演じる「源さん」が
登場しなきゃいけないのは、
ちょっと気忙しかったけれど、

転換稽古の時が私が勘違いをして
ミスをした分、張り切らねば!と、
特にここの転換は気合を入れました。

そうこうしていると、
おお!もう21時を回っている。
場当たりは前半が終わったところ。

完全退館時間まで
あと30分はあるけれど、
区切りもいい事だしって事で、
この日はここで終了する事に。

「では、今日はここまでにしまーす」

という高橋舞台監督の号令の下、
みなは一斉に帰り支度を済ませ、
ロビーに集合。

役者もスタッフも、
とにかく用心をして、
明日の初日は万全の態勢で
劇場に来てもらいたい。

「今日は皆さん、真っすぐ帰ってよぉ、
飲み屋に寄らないでねぇ!」

と私が言うと、
みんな笑いながら

「分かってますよぉ~」
との笑顔の答え。

明日も天気は良さそうだ。

大きく深呼吸をしつつ、
帰路についたのでした。


共有: