Page23–「初日の幕があがりました。」

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団長の独り言 2024.1.26 -5

「初日の幕があがりました。」

「お客様のご入場でーす」という
舞台監督の合図から間もなくすると、
続々と会場内にお客様が入ってこられる。

場内に入ると、
そこには立派な舞台セットが
まず目に入るかと思うのだが、
お客様はその舞台セットを眺めながら、
どんな物語が展開されるのか?を想像し、
パンフレットに目を通されたり、
お知り合いの方との軽い雑談をされたりと、
リラックスした時間を
過ごされているのだと思う。

一方の出演者達は口数も少なく、
楽屋からも
笑い声のひとつも聞こえない。

初日ってのはまぁー大体こんな感じ。
私はと言えば、

コンビニのとろろそばをほおばり、
台本に目を通し、何度も何度も
セリフの確認をしたのは覚えているが、
あとは・・・何をしていたのかな?
そうこうしていると、開演10分前。

場内はほぼ満席状態のようで、
舞台袖に行けばその騒めきが
より一層の緊張感をたかめる。

いつもならば、
関係者一同は緞帳幕の閉まった
舞台上に集合するのだが、
今回は緞帳幕がないので、楽屋を出た廊下に
全員が集まり円陣を組み、右手を大きく伸ばす。

「稽古通り行きましょう、
楽しみましょう。」

と私はひとりひとりの目を見ながら
優しく語り掛ける。

そして「いくぞ~!」「お~!」の
掛け声で気合を入れ、
各自が舞台袖に散らばり、
その数分後、静まり返った会場内に、
哀愁を帯びた、かぶちゃん(株竹大智)の
ヴァイオリンが響き渡り、
「知世」役のゆみさん(ますだゆみ)が、
夕日が窓から差し込む「老人ホーム」に現れ、
物語はスタートした。

みんなの芝居はとっても素晴らしく、
テンポも良く、1シーン、1シーン、
丁寧に進んで行き、
身内にしか分からないような
細かなセリフのミスはあったにせよ、
芝居がちゃんと流れているので、
特段問題なく1幕は終了。

10分間の休憩後、
2幕「居酒屋門出」のシーンが
始まった数十秒後、舞台監督の
高橋さんが私の元に飛んできた。

「団長、すみません!
(休憩中に出していた)
『10分間の休憩です』の看板、
ハケ(しまい)忘れまして、
芝居が始まっても暫く
舞台上に残ってしまいました!」と。

一瞬えっ?ってなったけれど、
聞こえてくる役者の芝居には
動揺した様子は見受けられない。

「(女将役の)千秋さんが、
芝居でうまくハケてくれたんですが・・・
すみません!」

と高橋さんはかなり落ち込んでいるが、
まぁー芝居はナマモノ、
ミスをしてしまったのはしょうがない。

芝居はちゃんと進んでいるので、
高橋さんをねぎらい、
私は「源助」に集中する。

その後も皆さんの芝居は、
とても落ち着いていて、
私もそんな皆さんに載せられて、
精一杯「源助」を演じ、
自分の中では完璧とは言えないが、
なんとか山場を乗り切り、

「番組終わったら
島根に向かうわ・・・じゃ~なぁ」

とカッコつけて、
超二枚目を演じ切り袖に向かい、
ホッと一息、あとは
「居酒屋」のシーンを残すのみ・・・

私は廊下で居酒屋門出の親父の衣裳に
着替えていると、
通りかかった千秋ちゃんが、

「団長!
まだ1シーンありますよ!」

と強い口調で教えてくれる。

そうなんです。
「源助」まだ、
着替えちゃいけないのだ!

私は慌てて元の衣裳に着替え直すが、
かなりやばい!
私の出番が刻一刻と迫っている!

着替えを終えて、
舞台袖に到着した数秒後に
私の出番となり、ギリギリセーフ!

何食わぬ顔でセリフを言いながら
出て行ったのだが、心臓はバクバク・・・
いやはや・・・
その動揺が芝居に出たのだと思うが、
ちゃんとセリフを言いきって、
あとは「惠津」を演じる
千秋ちゃん(鈴木千秋)の「声」を
待つだけとなったのに、
数秒待っても
その声が聞こえてこないのだ!

「千秋ちゃん早く!」と
心の中で焦っていると、
「ゆかり」役のみっちゃん(鈴木美千代)が、
「こちら源さんです」と、
アドリブでフォローのセリフを
入れてくれて、私は「ハッ!」となる。

そうだ!
もうひとつ私のセリフが残っていた!
「新田源助と申します」
というセリフを入れなきゃ、
物語は進まない!

気づいた私は、動揺している事を
お客様に気づかれないように、
堂々と立ち振る舞いながら、
へんな「間」を誤魔化し、

「初めまして、居酒屋門出の常連客の
新田源助と申します」

というセリフを入れる事が出来たけれど、
変な「間」を作ってしまったことに
めちゃめちゃ落ち込む・・・。

そのあとに続く、物語のクライマックスで、
そんな私のミスを吹き飛ばすくらいの

頼もしい芝居の数々・・・

私も気持ちを切り替え、
今度こそ!ちゃんと
居酒屋門出の親父の衣裳を着て、
元気いっぱい最後のシーンを演じ切り、
笑顔いっぱいのフィナーレを迎え、
なんとか初日の幕は下りたけど、
看板のミスに続いての
私のへんてこな「間」・・・

それより何より、
「新作」だということもあり、
お客様の反応が怖い。

でもロビーに出て、
お客様にご挨拶をするのも代表の務め・・・
針の筵になるのを覚悟で、
ロビーにてお客様へのお見送りをすると、
どのお客様もどのお客様も、
とっても感動して下さっている。

初めてお越しになったというお客様も、
涙を浮かべながら私の手を握り、
ご自分の人生と重ねてご覧になった感想を、
しっかり伝えて下さる方もいらした。

アンケート結果もとーっても良くて、
反省点は多々あるけれど、
なんとか初日は成功を収める事が出来たが、
私の中では悔しい想いでいっぱい。

明日!明日の楽日での
リベンジを誓ったのでした。


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